-伝言ゲーム-


伝言ゲーム

♂×3



後藤

場所はとあるホテルの広間、そこにBがあらわれる。
耳には目立たないようにインカムをつけている。
どうやら、別の場所にいるAから指示を貰って動いているようだ


A「テスト、テスト、聞こえるか」
B「こちら感度良好、聞こえてる」
A「緊張してるか」
B「いや、初任務だけどワクワクしてるね」
A「今回のターゲットは資産家の後藤氏だ」
B「この会場にいるのか」
A「こちらの監視カメラからは、視認出来る位置にいる」
B「事前に写真をくれれば手っ取り早いのに」
A「文句を言うな。物的証拠になりえる物は渡さない規則だ」
B「へいへい」
A「では、後藤氏の特徴だが、白いスーツを着ていて、紫のネクタイをしている」
B「結構な趣味だな」
A「資産家らしいだろ」
B「他には」
A「親指と中指に金の指輪。顔は、役者の……あいつだよ」
B「役者?誰だ」
A「ど忘れした。あの、映画のタイトル。とにかく海外の役者に似てる」
B「ブラッドピットか」
A「違う」
B「レオナルド・ディカプリオ」
A「違う、名前の最初が、たしか『マ』だったような」
B「マイケル・ダグラス」
A「違う」
B「ま、ま、ま、誰だ」
A「思い出した!ロバート・ダウニーJrだ」
B「『マ』は全然関係ないな」
A「気にするな勘違いは誰にでもある」
B「で、そのゴールドマンは今どの辺りにいるんだ」
A「会場の奥、シャンデリアの下辺りで、ご婦人と談笑している」
B「了解」
A「これから人の多い所に行くから、暗号を使え」
B「暗号というと」
A「ターゲットを、そうだな、さっきのJrを貰って『息子』と言え」
B「じゃあ、報告する時に息子が情報をもらしたと言えば良いのか」
A「情報は『御飯』にしろ。それなら『息子が御飯をこぼした』と意味が通じる」
B「了解」
A「健闘を祈る」
B「さっそく息子を見つけた、これから御飯を貰いに行く」
A「そうだ、そうやって使え」
B「失礼、ご婦人。息子と話させてもらっていいかな」
後藤「はて、私の父はもう、随分昔に出て行ったきりだが」
B「ああ、いえ、息子のような距離感で話しをさせていただきたいと言ったのです。」
後藤「そうか、えっと、君は」
B「佐藤です。よろしくお願いします」
後藤「佐藤君。申し訳無いが私は独身でね、息子との距離感と言われても分からないんだ」
B「いえ、親しくさせていただければと思っただけです。」
後藤「ところで何処の会社の方だったかな」
B「あのー、貿易会社です。株式会社」
後藤「付き合いのある会社は覚えているのだが、全ては難しくてね。何を取り扱ってたかな?」
B「あー、御飯です。」
後藤「御飯。ああ、農作物の輸出入か」
B「はい!そうです」
後藤「名前は?」
B「ええ、ですから、佐藤と」
後藤「会社の名前だよ」
B「ああ!株式会社ロバートです」
A「おい!」
B「しょうがないだろ。とっさに出てこなかったんだから」(小声で)
後藤「そうか。農作物でいったら、最近蝿がうるさくてね」
B「やっぱり虫が出るんですね。この時期」
後藤「ああ。周りを飛び回って困ってるんだ」
B「そうですね。そういう時は唐辛子が良いですよ」
後藤「唐辛子」
B「アルコールや水に漬けておいて、農作物に吹き付けると虫が寄ってこないと聞きます」
A「おい、何か勘違いしてないか。後藤氏はマスコミを揶揄してるだけだぞ」
B「あれ?何か違いました?」

後藤突然笑い出して

後藤「いや、すまんすまん。今度試してみよう。面白いな君は、佐藤君だっけ」
B「はい」
後藤「気に入った。個室で一緒に飲まないか」
B「ありがとうございます。」
後藤「では、こっちに来たまえ」
A「よし、うまく情報を引き出すんだ」
B「これなら、息子からかなり良い御飯が大量にゲットできそうだ」
後藤「なんだい、そんなに腹が減っていたのか、会場の御飯は口に合わなかったかね」
B「失礼しました。聞こえてましたか」
後藤「いやいや、農作物を取り扱ってるだけあって舌が肥えてらっしゃる」
B「いえ、けっして会場の食べ物がまずかったわけでは」
後藤「しかし、特別美味しいと感じなかった。いや私もだよ。だから」

SEドアの開閉

B「この食材は」
後藤「すばらしいだろ、上流階級の食べ物だよ。健康で、しかも美味い」
B「これは、どうされたんですか」
後藤「譲ってもらってるんだ。一部の知り合いにね」
B「賄賂というわけですか」
後藤「人聞きが悪いな。賄賂は金だ、これは誠意だよ」
B「息子が御飯をこぼした」
A「よくやった」
後藤「何をいってるんだ」
B「まだ他に御飯は」
後藤「あるが、先ほどから気になってたが君には息子がいるのか」
B「いえ、おりません」
後藤「じゃあさっきから誰のことをいっているんだ」
A「やばい誤魔化すんだ!」
B「ワタクシ事、です」
後藤「君のこと……。ああ、みなまで言うな。それより、チャックが開いてるよ。」
B「おっと失礼」
A「どうやら、良い誤解をされたようだな」
B「どこをどうやったら良い誤解になるんだよ」
後藤「あまり、人前でそんな独り言をしない方が良いかと思うのは私も年をとったからかな」
B「いえ、僕もまったく同意見です。失礼しました」
後藤「ところで、君はマスコミをどう思う」
B「と、申しますと」
後藤「私はね。今、マスコミを敵に回しているんだよ」
B「ええ、『消えた農作物と高まる値段』という記事がありましたね」
後藤「目を付けられたといっても過言ではない」
B「それは、後ろ暗いことがあるからですか」
後藤「それは決してない。先ほどの食材も、善意からなるものだ」
A「耳を貸すだけ無駄だ」
後藤「君らマスコミは、まず人を黒と思って動くから良くない」
B「今、なんと」
A「まずい。早急に帰還しろ」
後藤「メシの種にするために、吊るし上げる生贄を探している」
B「マスコミを全てそのように言うのはやめてください」
後藤「ほう、何か反論があるのか」
A「何してる早く戻れ」
B「言わせてください。全てが人の行いなら、その全てに良いも悪いも包括されると思えませんか」
後藤「それは、その通りだな。しかし私は包括されるのは嫌いだ」
B「そうです。マスコミという言葉だけを取り上げ個人を見ないのは良くない」
後藤「それなら、私も資産家という枠組みから取り除いた個人で見た時、君にはどう映る」
B「うさんくさいです」

後藤突然笑い出して

後藤「だから君は面白い。裏表が無い人は嫌いではないよ」
B「ありがとうございます」
後藤「だが、君のイヤホンの先に居る人物はどうかね」
B「私の口から言っても信じてもらえないと思います」
後藤「うん。やはり君は聡明だ。君は信じられるよ」
B「常々疑問に思っていたことでした。教えられること、目に映ることだけが真実ではないと」
A「おい、任務を忘れたのか。戻って来い」
B「すみません。息子の御飯はお預けのようです」
A「おい!」
後藤「君は君の真実を探して発信すれば良い。ただ、それにどんなフィルターを掛けられても負けるんじゃない」
B「僕の言葉だって誰かを伝えば意味もニュアンスも変わってしまう。だから、僕は自分の声で伝えたいと思います」
後藤「言葉っていうのはいつも嘘だらけだ。自分の信じたいものだけ信じればいいさ」
B「嘘はあばかれるのを待ってます」
後藤「じゃあ、一つだけ教えてあげよう。私は君の探してる資産家の後藤氏ではないよ」
B「え!?」
後藤「秘書の後藤だ。社長と同じ苗字でね」
B「だって、白いスーツに紫のネクタイって」
後藤「他に特徴は無かったのかい」
B「ロバート・ダウニーJrに似てると」

後藤突然笑い出して

後藤「それは嬉しいなあ。でも社長はロバートでもデニーロの方だね」
B「ゴッドファーザーじゃねーか!」
A「気にするな勘違いは誰にでもある」
後藤「だから言っただろう。思い込みは良くないって」