-廃墟に写る僕の影-


A 亀井 
B 芦田 
C 船長 

長崎から、しばらく船にゆられ、船長と二人はある島にたどりついた。
どうやら、ここで写真を撮るのが目的らしい。



SE波音
A「おい!絶対に機材を海に落とすなよ」
B「はい、わかりましたから亀井さんも運ぶの手伝ってくださいよ」
A「俺は今、仕事モードなんだよ」
B「よっこいしょっと。何やってるんすか」
A「端島(ハシマ)の気持ちを感じてるんだよ」
B「ハシマってなんすか」
A「この島の名前だよ」
B「え?この島の名前ってたしか……」
C「荷物は以上かな」
A「ええと、おい芦田」
B「はい、後は手荷物だけっす」
C「念のために言っておきますが、危険な区域も多いので、事故があった場合は」
A「自己責任で」
B「あ、事故だけにっすか」
A「バカお前、恥ずかしいだろ。すみません。こいつ、バカで」
C「それは、別にいい」
B「それにしても、凄いっすね。船から見た時はマンションが海に浮いてるかと思いました」
C「ここは、火葬場と墓地以外は何でもあるからね」
B「何でも……すか」
A「そう。この島にはパチンコも雀荘も映画館もスナックもあった」
B「この狭い島に」
A「全盛期の頃は東京よりも人口密度が高かったらしい」
B「ええ?僕、満員電車でも苦手なのに、それより?」
A「満員電車の密度は関係無いと思うが、5300人弱の人数が居たらしいぞ」
C「南北480メートル、東西160メートルのこの端島の通称は」
A「軍艦島」

SE波音

B「何だか、少し、怖い雰囲気もありますね」
C「まあ、なんだかんだ逸話も多い島だからな」
A「いまだにツアー以外は上陸不可だしね」
B「あれ?そうなんすか?」
A「だから、このことは誰にも言っちゃだめだぞ」
B「言いませんよ。ここまで付いて来たんだから、信用してくださいよ」
A「最近では、SNSですぐに拡散する奴がいるからな」
C「俺はインターネット自体しないから安心しろ」
A「いや、船長さんは信用してますよ」
C「どうだか」
B「僕はどうなんですか」
A「芦田は微妙」
B「酷いっすよ」
A「お前は口が軽すぎなんだって」
C「あんたらは一泊して行くんだったな」
A「ええ、そうです」
C「じゃあ、明日の同じ時間に向かえにくるから」
A「あのー、そのことなんですが」
C「どうした、もしかして怖気づいたか」
A「いえ最近行方不明が多いって聞いたんですけど、ご存知ですか」
C「さあ、もしかしたら、あんたらみたいに廃墟に勝手に入って事故にあったのかも知れないね」
A「そうですよね。なので一緒に泊まっていきませんか」
C「何言ってるんだ」
A「この島の地理は頭に入れて来たんですが、危険区域の危険度や逸話などを教えて欲しいんです」
C「そうは言っても、準備が何も無い」
B「あ、宿泊用の荷物でしたら、一人分の余裕はありますよ」
A「往復のガソリン代も浮きますし、どうです?」
C「まあ、いいか、行方不明になられても困るしな。でも、絶対に俺をカメラで撮ろうとするなよ」
A「わかりました。助かります」
C「あんたらが写真撮ってる間、俺は何をしてたらいい」
A「写真を撮る場所のことを教えてください」
B「丁度、この後撮りに行くんで、よろしくお願いします」
C「あいよ」

SE カメラシャッター音

A「船長さん、ここは確か」
C「小学校だ、ここも危険区域に入ってるから、あまり奥に行かない方が良い」
B「何か、窓が升目になってて、碁盤のような建物っすね」
C「限られた土地しか無いから、無駄な装飾は無いし、あっても年月が経ってるからね」
A「良いな、そのフレーズ。年月経て残るのは必要な物のみ」

SE カメラシャッター音

B「あれ?でも、パチンコや雀荘もあったんですよね」
C「君は」
B「芦田です」
C「芦田君は、人が生きるのに娯楽はいらないと思うか」
B「いや、何か無駄って言っちゃうと、そんなイメージも無くは無いっていうか」
C「衣食住があっても、人は希望が無いと生きられない」
A「この島には希望があったと、強制労働の話も聞いたことがありますが」
C「君は、マグロ漁船や蟹漁船の話は知ってるか?」
A「ええ、高収入だけどキツイし死ぬこともあるって」
C「それと同じでね、この島は炭鉱なんだよ。地下深く潜って石炭を取ってたんだ」
B「うわー、俺は無理だな。そういうの」
C「そう思う人もいるし、そう思わない奴もいる」
A「ここに集まった人はそう思わなかったと」
C「生活の全てがそこにあった。ハイテク都市の先駆けでね。変な憧れはあったかな」
B「確かに、変な憧れはありますね」
C「その代わり仕事はそうとうきつかったらしい」
A「どんな生活をしてたんですかね」
C「当時の日本と同じだが、より強固な絆があったらしい。島一つが生き物のような混然一体となった場所だよ」
B「それはプライバシーも無さそうっすね」
C「その代わり、犯罪だって少なかった。みんなが今日を生きるのに必死だったからな」

SE カメラシャッター音

A「その、生活の名残が時を越える」
B「あ、すみません。何か、亀井さん自分の世界に入っちゃうんです」
C「あんたらは、どこかの雑誌社にこれを載せるの」
B「写真集を出したいと思ってるって聞きました」
A「おい」
B「はい!」
A「おしゃべりしてないで、レフ板持って、中撮るぞ」
B「え、中は危ないんじゃないんすか」
C「自己責任」
A「とはいえ、危険度的にどうですかね」
C「変なところを触ったりよっかかったりしなければ大丈夫だ」
A「だと。芦田!」
B「はーい、わかりましたよ」
C「俺からみたら、変わらないけどな」
B「何がですか」
C「危険なところに行って仕事するあんた等と、ここの島民」
B「そうですかねー」
A「芦田!!」
B「はーい、すんません」

SE波音

A「よし、大体予定通り撮ったから、暗くなる前に夜の準備しよう」
C「多分この辺りだったら、テントを張っても安全だと思う」
A「じゃあ、さっそくテントを」
B「あれ?ない」
A「ええ!?どうするんだよ。テントと一緒に寝袋も入ってるんだぞ」
B「ああ!すみません多分船に忘れたんだと思います」
A「早く取ってこいよ!」
B「……わかりました」
A「いやー、それにしても船長さんのおかげで助かりましたよ」
C「いや、俺は何もしてないよ」
A「本当ですって、やっぱり、写真に写るんですよ。感情っていうか、知識っていうか、そんなものが」
C「俺には良くわからないが、役に立てたんなら良かった」
A「ホント、あいつなんか全然使えなくて」

B「うわー!!」(遠くで)

A「何だ」
C「船の方だ」
A「行ってみましょう」

SE波音

C「芦田君!」
A「芦田!」
C「ちょっと船の中を見てくるよ」
A「お願いします。芦田ー!!どこだー」

後ろから亀井が何かで殴られる
SE 鈍い音

C「中にはいなかったよ。あれ?亀井さん?」

船長倒れている亀井を見つける

C「亀井さん!どうしたんですか。亀井さん!」
A「……誰かに殴られて、あいてててててて」
C「とりあえず、船の中で、傷口をみよう。応急手当も出来るから」
A「すみません。お願いします」
C「救急箱は……と」
A「本当に突然で、びっくりしました。何がなんだか、芦田もどこに行ったのか」
C「ああ、本当に、芦田君はどこに行ったんだろうね。でも心配しなくて良い」
A「え?」
C「すぐに会えるようにするよ」
A「それは、一体どういう……」
C「君らは、正規のツアーで来てないだろ。それに此処に来ることを誰にも言ってない」
A「船長さん…。なんですかそのデカイ包丁は」
C「つまり、君らは、突然行方不明になるわけだ」
A「どういうことだ」
C「生きる希望が無いと大変だって話だよ」
A「話が見えないな」
C「単純な話さ、この島も不法侵入する奴も大嫌いでね、ついでに追いはぎみたいな真似をしているんだ」
A「よし」
C「なんだ」
A「芦田、録音したか」
B「録音しました。はい、手を上げて」
C「え?なんで銃なんか持ってるんだ」
A「端島連続行方不明事件の犯人だな」
B「長崎県警だ。はい、これ警察手帳」
C「刑事……か」
A「そういうこと。とりあえずしょっぴく罪状は、傷害、強盗。まあ後々、さっき録音した資料からたっぷり証言してもらうからな」
C「どうしてわかった」
A「顔に出るんだよ。感情っていうか、知識っていうか、そんなもんが」
C「……俺にはわかんねえなあ」
B「亀井さん。もう、県警の船が到着してます」
A「そうか、わかったご苦労さん。そうだ船長さん。あんた、さっきあんなこと言ってたけど本当はこの島のこと好きなんだろ」
C「さあね」

SE 波音

B「亀井さん引渡し終わりました」
A「おう。お疲れ。に、してもお前は演技が下手だな」
B「ええ?ばれなかったじゃないですか」
A「『うわー』は無いだろ。『うわー』は」
B「だって、どう声を出せばいいかわからなかったんですよ」
A「中々動かなかったから、囮みたいなことをさせたけど、内緒だからな」
B「わかってますよ。あれ?どうしたんですか、それ?」
A「船長が見てて、気になって一枚撮ったんだよ。悲しそうに小学校の教室を見ててな」
B「なんかあったんですか」
A「これは、事前の調査でわかったことなんだがな」 B「なんで、僕には知らされてないんですか」 A「まあ、そこはいいから。でな、あいつ、もともと写真が好きだったらしいんだ」 B「そうなんですか、それならなんで」 A「で、ある日、奥さんと子供を連れてここに来た」
B「もしかして」
A「ああ。事故だったらしい。でも、不法侵入だったから、助けとかも遅れてな」
B「そんな話、聞いたこと無かったです」
A「ああ、島が色々とデリケートな時期だったから、どこかでひっそりと新聞に載ったくらいかもな」
B「それで希望を失ったと」
A「あいつが殺したい程憎いのは、もしかしたら、あいつ自身なのかもしれないな」
B「自己責任っすか」
A「ここには、火葬場も墓地もない。生活の全てがあったが……死に場所は何処にも無かったんだな」

SE 波音