一泊二日の事故物件



♂×2

A 梶 孝彦 かじ たかひこ
B 伊藤 健司 いとうけんじ


二人は不動産会社の先輩後輩。
梶は事故物件に何度か泊まっている先輩。
伊藤は入社して初めてなので、緊張している。
今回、事故物件の検分と心理的瑕疵(かし)について
調査のために一泊することになった。


M FI

SEドア

SEきしむ床 足音が二つ

A「いかにも、な所だな」
B「そうですね。外観もそうですけど、内装も不安になります」
A「これでも、リフォームしたらしいぞ」
B「そうなんですか!?とても信じられないです」
A「伊藤、怖いのか」
B「それは、まあ、そうですね」
A「今からそれじゃあ、身が持たないぞ」
B「梶さんは慣れてますね」
A「まあな。ほら、ホームページ用の写真撮って」
B「あ、はい」

SE カメラ シャッター音(電子音でも可)

A「どれ、見せてみろ」
B「こんな感じでどうですか?」
A「バカ、お前の怖さがにじみ出てるじゃねぇか」
B「そうですか?」
A「こんなくっきり明暗がある写真じゃなくて、明度を上げて明るさで誤魔化せ」
B「そしたら見学に来た人がガッカリしませんか?」
A「そこを、すかさず営業トークでカバーするのが俺らの仕事だ」
B「なーるほど」
A「に、しても久々に薄気味悪いな。ここ」
B「そうなんですか」
A「残念だったな伊藤。お前の初めてはハズレだ」
B「ハズレ」
A「ああ、当たりの物件だったら、それはもう楽しいぞ」
B「なにが、どう、ハズレなんですか?」
A「景色は悪い。日当たりも悪い。築年数も古い。周りに人の気配も無い」
B「まるで異世界みたいな物件ですね」
A「当たりの物件はこれが真逆だ、ちょっと飲みに行けたりもする」
B「梶さん、そんなことしてるんですか」
A「内緒だぞ」
B「仕事中にダメですよ」
A「違うよ。大事なんだぞ、酒は」
B「何が大事なんですか」
A「知らないか?幽霊がいる所は酒を置いておくと、まずくなるんだ」
B「本当ですか」
A「嘘だと思うなら、ちょっと酒買ってこい」
B「それはパシリじゃないですか」
A「まあまあ。どうせ夜なんてやることないんだから」
B「でも、この業界初めてですけど、不動産屋が物件に一晩泊まるなんて聞いたこと無いですよ」
A「会社によってマチマチだろ。他の会社との差別化だよ」
B「なんでこんなこと始めたんですかね」
A「心理的瑕疵についてだと」
B「カシ?」
A「まあ、不安に思う事案があったりする物件なんかを、一度スタッフが泊まって大丈夫だったと言いたいのさ」
B「ということは、この物件は何かあったんですか?」
A「近くに暴力団があるとかでも、その心理的瑕疵っていうのはあるから。深く考えなくていいよ」
B「そうなんですか」
A「そうなんです。わかったら酒を買ってきなさい」
B「あ、それは本当なんですね。領収書どうしましょう?」
A「バカ、俺があとで自腹で払うよ。そこはさすがに」
B「すみません。行ってきます」

SEドア

A「さてと、残りの写真を撮っとくか」

SE カメラ シャッター音 ×3
SEふすまを開ける音
SEメモを取る音

A「えー、トイレは和式水洗、洗濯機置き場は外で、押入れは1…2…。二つか。間取りは4畳半と6畳の2DK…ん?」

SE書類の束を出す

A「おかしいな。貰った資料だと押入れは三つとかって、あ、これか」

M FI不穏な音楽

A「何か、変な間取りだな。こんなところに押入れとか、まさか変な物は入って無いか……?」

M CO
SE ドア

B「戻りましたー!!あれ。どうしました梶さん。寝転んじゃって」
A「……脅かすなよバカ」

M CI FO

SE酒を飲む梶

A「つまみとって」
B「はい」
A「伊藤はこの業界の前ってどこにいたの」
B「写真撮ってました」
A「え?マスコミ関係?」
B「はい。アラスカ行ったり、アフリカ行ったり」
A「すごいじゃん。つーか、早く言ってよ。カメラのプロにダメだししちゃたじゃん」
B「いや、プロじゃないですよ。それに写真は用途によって撮り方も変わりますし」
A「いやいや、さっきの写真だってさ、明暗くっきりしてて、奥行きが……うお!」
B「どうしました?」
A「しゃ…写真」
B「これがなんかあったんですか」
A「暗いところ、女の顔が見えない?」
B「またまた、僕には見えませんよ」
A「いや、冗談じゃなくて、見えるだろ!」
B「梶さん、酔い過ぎですよ。少し風入れましょうか」

SE窓を開ける

B「ああ、星が綺麗ですよ」
A「伊藤は結構肝が据わってるんだな」
B「意外と人の方が怖いもんですよ。特に言葉が通じなかったりすると余計に」
A「でも、突っ込んだこと聞いてあれだけど、なんで不動産屋に転職したんだ?」
B「アフリカのシャーマンに言われたんです。この仕事に就けって」
A「シャーマンって霊媒師?なんだよ、言いたくないなら、そういえば良いよ」
B「ホントですって」
A「しかし、俺は結構こういう所に泊まってるけど、ここまで不気味な所は初めてだな」
B「そうですか。アフリカの田舎の方だと、これでもしっかりした建物なんですけどね」
A「いや、そういうのと違うんだって、やっぱり雰囲気っていうか」
B「さっきの写真の所為ですか」
A「それもあるかもな。あ、実はさっき伊藤に買出しをお願いした時に、妙な押入れを見つけてな」
B「妙な押入れって、なんですか。押入れに妙も何もないじゃないですか」
A「いや、位置がおかしいんだよ。トイレの真横にへんなスペースがあるんだよ」
B「そこに何があったんですか?」
A「いや、実はまだ開けてない」
B「何でですか!」
A「しょうがないだろ!開ける前にお前が帰ってきちゃったんだから」
B「じゃあ、開けましょうよ」
A「もう、暗くなってるじゃん。明日の朝にしようよ」
B「一晩気味の悪い押入れを放置するのとどっちが良いですか」
A「どっちも嫌だなあ」
B「どっちも同じなら開けちゃいましょう」

SE足音

B「ここですか」
A「そう」
B「梶さん。家族居ます?」
A「なんだよ急に」
B「いいから」
A「妻と子供と両親」
B「じゃあ、その人たちにはよろしく言っときますね」
A「その、前置き止めろよ。開けにくくなるだろ」
B「じゃあせーので開けましょうか」
A「ちょっとまって、ちょっとまって」
B「せーの!!」

SE襖

A「から…っぽ」
B「からっぽですね」
A「そうだよな。そうだよ。なんだよびっくりさせて」

SEカメラ シャッター音

A「なんだよ急に」
B「いや、俺カメラに触って無いですよ」
A「え?いやいやいや」
B「大体カメラはそっちの部屋に置いてきたじゃないですか」
A「じゃあ、そこにあるのはなんだよ」
B「カメラ……ですね」
A「今、シャッター切ってたろ。何か映ってるかもしれない」
B「梶さん見てくださいよ」
A「うん、何か映ってるかもしれないぞ、伊藤」
B「こういう所に泊まるの慣れてるって言ったじゃないですか」
A「こういう事態に慣れてないんだよ」
B「分かりました。確認してきます」
A「おう」
B「えーと……。ああ、梶さん」
A「どうだ」
B「当たりですよ」
A「何が」
B「俺、アフリカのシャーマンに言われて転職したって言ったじゃないですか」
A「うん、それが」
B「あれ、本当なんですよ。実は、失踪した妹を探してたんです」
A「伊藤、それは、何の話だ」
B「突拍子も無いですよね。でも、この子なんです。見てください。これ、妹です」
A「うおおおおおおおおおおおおおおお」
B「ああ、ここにいたんだ」
A「怖いよ。何だよそれ、超怖いよ。お前が怖いよ」
B「うちの両親、あんまり仲が良くなかったんですよ」
A「そうだな、そんなヘビーな妹さんがいたら大変だと思う」
B「いや、妹は元々普通だったんですけど、俺が海外に逃げるような真似をしちゃったから」
A「お前が海外に逃げたら、妹さんはこんな恐ろしくなるのかよ」
B「たぶん、ここで……」
A「え?でも、ここの資料だと、この事故物件では男の人のしか無かったはず……!」
B「じゃあ、まだここに」
A「これ以上は無理だわ。もうダメだわ。やめろって、言うな。言わないで」
B「お願いしますよ。梶さん。探すの手伝ってください」
A「あー、もう。わかったよ、乗りかかった船だ」
B「ありがとうございます。じゃあ、そこのカラッポの押入れの」
A「え?ここの?」
B「ええ。写真の妹はその上の天袋を指差してるんです」
A「うわあああああああ……目が合っちゃった。目が無いのにあっちゃった」
B「意外と早く見つかりましたね」
A「お前、分かってただろ」
B「すみません。じゃあ、梶さん、すみませんついでに警察を呼んでもらって良いですか」
A「凄いなお前、驚いてる俺がバカみたいじゃん」
B「どんなになっても妹なんで」
A「近くに交番があったはずだから、呼んでくるよ」
B「電話じゃないんですか」
A「ちょっと二人っきりにしてやるって言ってるんだよ」
B「……ありがとうございます」

SEドア

B「こんな所で暮らしてたんだな。ごめんな。ホントに
でも、見つけてやれてよかった。これで、成仏出来るかな。
お前が出てってから、離婚だなんだって言ってた親父達も
ようやく目が覚めたって言ってたよ。もう遅かったかもしれないけど
でも、お前のおかげだったんだよ。逃げてごめんな。一人にしてごめんな」

SEカメラ シャッター音

B「あれ?また勝手に……ああ」

SEドア

A「丁度、おまわりさんが巡回してて、今応援呼んでるって。……どうした?」
B「これ、見てください」
A「おお、可愛いな。妹さんか。幸せそうに笑ってるじゃん」
B「はい。うちの可愛い妹です」
A「またカメラマンに戻るのか?」
B「そのつもりです。妹にこんな良い写真撮られたら、兄として超えなくちゃ」
A「十分プロじゃないか」
B「いえ、プロっていうのは、梶さんですよ。家族を幸せにするための仕事が出来てるじゃないですか」
A「そうか、伊藤の言うプロはそういう意味で言ったんだな」
B「まあ、人それぞれでしょうけど」
A「あ、そうだ、警察が来る前に部屋を片付けないと」
B「そうですね。仕事中に酒飲んでるのバレちゃいますもんね」

SE足音

B「コップに残ってるのどうしますか?」
A「こっちに頂戴。はい、お前はこれ持って」
B「何ですか?」
A「まだ状況が上手く飲み込めてないけど、妹さん見つかってよかったな。」
B「はい」
A「妹さんに献杯」
B「献杯!」

一気飲みするAB

SEコップを置く

静かに笑い出す二人

AB「あー不味い!」


M CI

M FO