-水際の攻防-

水際の攻防

総数×2

銀行員
強盗


静かな平日の昼下がり。
銀行で窓口業務をしていると、強盗が入ってくる。
凄みを考えると強盗は男性が望ましい。
銀行員は頼りなさそうな男性が好ましい。

強盗は人気の少ない平日の昼に来た。
出来れば誰も傷つけず穏便に金を手に入れたい。
銀行員は、強盗を刺激しないように、平静を装うが本当はものすごく怖い。
出来れば穏便に強盗を誰かに捕まえて欲しい。もしくは帰ってほしい



銀行員「番号札20番でお待ちのお客様。大変お待たせいたしました」
強盗 「……あの、すみません。お金を出して欲しいんですが」
銀行員「はい、お金をおろされるんですね」
強盗 「あ、いや、そうじゃなくて、お金を出して欲しいんです」
銀行員「お金を出して、欲しいとおっしゃいますと……」
強盗 「ここにある金を出して欲しいって言ってるんです」
銀行員「ここに預けてあるお金を全額おろして欲しい」
強盗 「あー、……騒ぐな。金を出せ。これを見ろ」

強盗刃物をちらつかせる。

銀行員「あ!あ、さようでございましたか、少々お待ちいただいてもよろしいですか」
強盗「窓口にあるので良い」
銀行員「窓口ですと、用意出来ても私の財布くらいですが」
強盗 「いくらだ」
銀行員「3万円くらいですね」
強盗 「バカにしてるのか」
銀行員「いえ、とんでもないことでございます」
強盗 「なんで給料日直後で銀行員の手持ちがそんなに少ない」
銀行員「うちはお小遣い制でして」
強盗 「じゃあ、お前の権限で出せる金はいくらだ」
銀行員「私の権限ですと、1円も出せないんです」
強盗 「お前は銀行員じゃないのか」
銀行員「お金を出す際に間違いが無いように他の者も確認しているので」
強盗 「一人の権限でお金を動かすのは無理と」
銀行員「はい」
強盗 「別に正規の手続きを踏む必要は無いんだよ」
銀行員「そうは言いましても、銀行員がお金を横領しないように最近は厳しいんですよ」
強盗 「いいか、俺は相談をしてるんじゃなくて、命令をしてるんだ」
銀行員「それでは、上司に相談してもよろしいでしょうか」
強盗 「ダメだ。接触する人数は一人って最初に決めたんだよ」
銀行員「申し訳ありません。私も出来る限り努力はしているのですが」
強盗 「とりあえず、お前の財布の金をよこせ」
銀行員「あ、失礼いたしました。気付きませんで」
強盗 「いいから早くしろよ」
銀行員「すみません。今、一枚落としてしまいまして」
強盗 「待て」
銀行員「……はい」
強盗 「机から離れて、ゆっくり立て」
銀行員「どうかされましたか」
強盗 「机の裏に非常ボタンがあるんだろう」
銀行員「いえ」
強盗 「嘘を付くな。こっちは映画やドラマで知ってるんだよ」
銀行員「映画やドラマは、あくまで造り物ですから、ご都合主義なんですよ」
強盗 「どちらにしてもおかしな真似をするな」
銀行員「わかりました、では、私はどのように致しましょうか」
強盗 「携帯は持ってるか」
銀行員「はい?」
強盗 「お前は今携帯を持ってるのか」
銀行員「いえ、携帯電話は金庫に預けてあります」
強盗 「なんで携帯を金庫に入れてるんだよ。携帯しろよ!」
銀行員「個人情報を取り扱うため業務中は預けるんですよ」
強盗 「……くそっ」
銀行員「お力になれず申し訳ありません」
強盗 「……いや、まだ手はあるはずだ、考えろ、考えろ」
銀行員「よろしければ」
強盗 「なんだ」
銀行員「あ、いえ、よろしければ、何故このようなことをされたんですか」
強盗 「……大学」
銀行員「大学?」
強盗 「大学に落ちたんだよ」
銀行員「それで」
強盗 「もう、ダメなんだよ」
銀行員「何がですか」
強盗 「もう、三浪もして後が無いんだよ」
銀行員「私高卒なんですが」
強盗 「え?」
銀行員「後が無いっていうのは、人生の後が無いわけでは無いですよね」
強盗 「でも、落第者ってレッテルが」
銀行員「人は欠点だらけですよ。まだ大丈夫です。犯罪者ってレッテルが貼られる前じゃないですか」
強盗 「でも、もう、それだって」
銀行員「まだ大丈夫です。さあ、大学が全てでは無いですよ、あなたが何をしたいのかが大事です」
強盗 「俺がしたいこと……」
銀行員「強盗なんてしたくないんでしょう?」
強盗 「……はい」
銀行員「困ったらまた、来ていいですから。今度は相談でお願いしますよ」
強盗 「ご迷惑をおかけしました」
銀行員「とんでもないことでございます」
強盗 「すみません。ありがとうございました」
銀行員「またのご来店をお待ちしております」

SE自動ドア

銀行員「あーーー怖かったーーーー」


了