-飛び込む勇気-



♂×1
♀×1

A三部 孝太 (みべ こうた)
B皆藤 美奈 (かいどう みな)

SE波音

A「飛んでみるか?」
B「怖いよ。それにきっと痛い」
A「わからないよ。飛んでみないと」
B「色々な不安が襲ってくるんだもん」
A「下は水なんだ」
B「水でも痛いって聞いたことがある」
A「そりゃ、失敗したら痛いこともあるよ」
B「やっぱり痛いんじゃん」
A「失敗したらって言っただろ」
B「私、絶対失敗する」
A「そんなに自信を持って言うなよ」
B「ここって浅くないの?」
A「結構深いよ」
B「じゃあ、溺れちゃうかも」
A「浅い方が危険だよ。勢いで頭をぶつけちゃうだろ」
B「そっか、でも、水が冷たくて心臓麻痺になっちゃうかも」
A「そうかもな」
B「そうかもなって、どうするのさ、そうなったら」
A「そうなったら。俺が必死で助けるよ」
B「バカ……そういう問題じゃなくてさ」
A「どうしたんだよ」
B「なにが」
A「いつもは、見てるだけだったじゃん。飛び降りるの」
B「別に。皆が楽しそうだったからさ」
A「前は、それでもバカみたいって言ってたじゃん」
B「今もそうだよ。怪我するかも知れないのに、こんな高いところから」
A「意外と高くないよ。慣れればそんなに怖くない」
B「でも、考えちゃうよ。失敗したらどうしようって」
A「それも、きっと大事なことだけど。それじゃあ何も出来なくなるだろ」
B「そう。何も出来ないの。ただ流されていて」
A「本当にどうしたんだよ」
B「私ね。好きな人がいるの」
A「えっ?」
B「でも、その人は今度東京に引っ越すの」
A「そうか、それはその、……残念だったな」
B「それで、色々考えたんだけど、ふと、ここのことを思い出したの」
A「なんで」
B「なんでだろうね」
A「意味わかんねー」
B「うん。私も意味わかんなくて」
A「……あ、親父の船が見える。おーい」
B「孝太は、船を継ぐの?」
A「ああ、子供の頃からの夢だしな」
B「そっか、かっこいいね」
A「でも、美奈風に言うと流されてるのかもしれない」
B「でも、子供の頃からの夢なんでしょ」
A「深く考えたことなかったからなぁ」
B「私の悩みに付き合うこと無いよ」

A少し笑って

A「俺にも、たまには深く考えさせてや」
B「深くって、何を」
A「海に潜るみたいに、自分の意識の芽生えを考えるんだ」
B「何それ、ロマンチスト」
A「ロマンは大事だろ。でな、そしたら、何で俺は船を継ぐのかがわかるんだ」
B「私の場合だと、何で好きになったのかってことかな」
A「俺は、親父の仕事を手伝ったりしてたけど、もっともっと知りたいと思った。その仕事で深く潜りたいって」
B「職人だね。私は、私は……。私は、自分の事のように笑ったり泣いたり考えてくれるから好きになったのかな」
A「そいつ、俺の知ってるやつ?」
B「内緒。でも、知ってるんじゃないかな。私の狭い世界の話だから」
A「まさかと思うけど、今度東京に行くって、カベセン?」
B「……うん」
A「あいつ独身だったのか」
B「うん」
A「でも、それなら生徒に手を出したって言われないか心配だな」
B「なにもしてないよ!」
A「びっくりしたー」
B「ごめん、でも、なにもしてないの。日下部先生のことを悪く言わないで」
A「ああ、悪い。でも、美奈、そんなおっきい声が出せるのな」
B「私も、自分の声にびっくりした」

二人静かに笑い出す

A「子供のころから知ってるけど、知らないことだらけだな」
B「そうだよ。他人だもん」
A「冷たいな。幼馴染じゃん」
B「そうだよ。幼馴染だから、こんなに冷たくも出来ちゃう」
A「なんだそれ」
B「んー、信頼関係の話かな?」
A「嫌われないから冷たく出来るってこと?」
B「それもあるし、好きとか嫌いじゃないってことかな」
A「好きとか嫌いじゃない、か」
B「そう。もっと違う信頼関係っていうかさ」
A「じゃあ、大丈夫だよ」
B「何が?」
A「自分のことも、そうやって信じたら良いんだよ」
B「確かに自分は好きとか嫌いとかじゃなく、一生関わっていかなきゃいけないけど」
A「東京さ」
B「え?」
A「お前のことだから、もう、色々心配になっちゃって調べてあるんだろ」
B「さすが、お見通しか」
A「大丈夫だよ、美奈なら、俺よりも準備も心構えもあるんだから」
B「そうかな」

SE 風

A「飛んでみるか?」
B「えー、……うん、でも、まだちょっと怖い」
A「俺だって怖いよ。いまだに」
B「さっき、慣れるって言ったじゃん」
A「勇気を持てるようになるんだって」
B「どうやって?」
A「初めての時は俺だってものすごく怖かった」
B「前は全然怖くなかったって言ってたのに」
A「それは弟達が居たから、少し見栄をはったんだよ」
B「でも、それなら、その時はなんで飛べたの?」
A「未来を信じた」
B「出た、ロマンチスト」
A「茶化すなよ。本当だって、未来を信じたんだよ」
B「そんな簡単に言うけど、未来を信じるってどうするのさ」
A「成功してる未来。楽しい未来。上手くいったイメージだよ」
B「不安を隠して、未来を信じるの?」
A「そう。テレビでもアスリートが言ってるだろ」
B「飛び込む時に、楽しい未来を想像するの?」
A「そう。自分を信じるんだよ」

SE 波音

B「……なんか、行けそうな気がしてきた」
A「カベセンとの幸せな未来を考えて」
B「うん」
A「東京に飛び込みに行け!」
B「先生ー好きー!!あああああああああああああ」

SE飛び込んだ音

A「美奈ー大丈夫かー」

浮かんでこない美奈

A「美奈ー!」
B「だいじょーぶー。私飛べたよー!!」
A「ああ!良くやった!おめでとー」
B「孝太のおかげー」

Aポツリとつぶやく

A「……美奈好きだったよ」
B「孝太ーこれどうやって上がるのー?」
A「俺も飛ぶー」
B「えー?」
A「美奈ー幸せにならないと承知しないぞ!!」

SE飛び込んだ音
SE水の中から顔を出す

息切れしてるA

B「孝太。私、大丈夫、多分、上手くいくイメージが出来た」
A「おう。帰ってくるときは、カベセンも連れて来いよ。同窓会でイジッてやる」
B「よろしくね。私、きっと今日という日を忘れない。私の中で革命が起きたの」
A「俺も、きっと、今日を忘れないと思う。美奈。さようなら」
B「孝太。さようなら、そして、ありがとう」

SE波音

SE遠くで船の汽笛が聞こえる